那賀町と言う所にシンという小学三年生になる少年が暮らしていた。
シンはある時、自分に特殊な能力があることに気が付いた。

それは、裏山の池に遊びに行っている時に突然でかいイノシシと
そうぐうしてしまった時のことである。
シンは『ウワ―』と声をあげてしまった。
するとイノシシはこちらに頭を向けてにらんできた。
シンはあまりの恐さに体が固まった。
イノシシは今にもこちらに突進して来そうだ。
シンは逃げるどころかなぜかトコトコと前に進んでしまった。
イノシシは目をつり上げてドドドドドッと突進してきた。
シンは前にあった石につまづいてゴロリンとでんぐり返しをしてしまった。
するとイノシシは180度方向転換してすっ飛んで逃げて行ってしまった。
シンはなぜイノシシが逃げたか解らないがヤレヤレと思いながら
ひょっと自分の姿を見ると毛もじゃらのゴリラに変身していた。
ありえない姿を見てビックリ『ウワ―ア…アアアアア』と後ずさりをすると、
石につまづき後ろにでんぐり返りをして人間の姿に戻った。

それ以来でんぐり返りをすると祖先に戻るように一瞬で姿を変えられる
ことが分かった。
祖先に戻るだけでなく進化の過程で分化した爬虫類や両生類
にでも変わることが出来た。

ある日、友達のユウがカイトにいじめられて泣いていた。
カイトは毎日のように友達をいじめて泣かしていた。
シンはカイトが見かけによらずカエルが大の苦手と言うことを知っていた。
休み時間に外で大きなガマガエルに変身して見つからないように
教室に入りカイトの机の中に入った。
休み時間が終わりカイトヤみんなが教室に戻ると、
シンは机の中からカイトの股の間に飛び乗った。
カイトはガマガエルを見て『ギヤ〜〜』と言って立ち上がった。
あまりの驚きで体が震えてジャーとおしっこを漏らしてしまった。

それ以来カイトはすっかりおとなしくなり友達をいじめることはなくなった。
いじめる子がいなくなり生徒達は学校に来るのが楽しくなって教室も
明るくにぎやかになった。
シンには同級生のマナちゃんと言う大大大好きな女の子がいた。
でも、声をかけるのが恥ずかしくて話をしたこともなかった。

教室で気になっているマナちゃんが『私世界一パンダが好きなの…
 一度見てみたいの』
友達が『私も見たいわ〜』と言っていた。

シンはマナちゃんがパンダが一番好きなことを知った
シンはこのチャンスしかないと次の日曜日に思い切ってマナちゃんと
近くの公園で会う約束をした。

日曜日が来るとシンはマナちゃんと会うのがうれしくて早く公園に
出かけてマナちゃんがやって来るのを待った。
しばらくするとまなちゃんが走ってやって来た。
マナちゃんは『シンちゃん何か話あるの』と聞いた。
『んんん…あのね』『パンダを見てみたい?』
マナちゃんは『ええ見たいわよ』と言った
シンはマナちゃんの手を持ち無理やり前にでんぐり返りをした。
するとシンもマナちゃんもパンダに変身した。
マナちゃんはパンダになったシンを見て『パンダ〜〜?』 と言って
びっくりした。
さらに自分の姿も見るとパンダになっていて『きゃ〜〜』と
二度びっくりした。
でも大好きなパンダが前にいるだけでなく自分もパンダになっていて
ぴょんぴょんはしゃぎまわって喜んだ。

すると『大変だ〜大変だ〜』大きな声がして『パンダだ…パンダだ』
と散歩で通りがかった人が見つけて大騒ぎになった。

すぐに警察や自衛隊へと連絡が行きパンダの捕獲作戦が始まった。
シンとマナちゃんはただただ驚いて山の方へ駈け出した。
裏山のほうじょうのもりにつくとシンは後ろにゴロリンと回り元の姿に戻った。
マナちゃんはシンが元に戻っていることを知らずに一人で走り続けていた。
空からはヘリコプターがバタバタバタバタとばく音を立てて通り過ぎ
ジープがガガガガガ―、パトカーがウーウーウーと砂煙をあげて近づいてきた。
マナちゃんはすぐに捕まってしまったが、
『まだもう一匹いるから気をつけろ』 と言って大勢の人が探し続けた。
シンはとりあえず逃げるように家へ戻った。
マナちゃんはパンダが逃げないようにと頑丈な蔵の中へと入れられた。

シンのお父さんやお母さんはシンに向かって『パンダが動物園から逃げ出したらしいよ』
『一匹捕まったけど、まだ一匹いるらしいよ…気をつけなさい』と心配してくれた。
シンはマナちゃんのことが心配になり『どうしよう…どうしよう』とうろうろした。

夜になって覚悟を決め、こっそりと家を抜け出し蔵へと向かった。
蔵の前には見張りの人がいて、どこからも入る所がなかった。
裏に回ると小さなネズミが通る穴があった。
シンは『ネズミになるか』と言うとでんぐり返りをしてネズミに変身した。
すぐ、穴を通り中へと入った。
マナちゃんはネズミを見て泡を吹き失神して倒れてしまった。
シンはネズミから自分に戻って『マナちゃんマナちゃん…目を覚まして』
と言うと目を覚まし起き上った。
『私どうしたの…ネズミいなかった』と言った。
『僕がネズミになってそこの穴から入って助けに来たんだ』
『私ネズミが世界で一番嫌いなのよ』
『でも、どうしてもネズミにならないと…ここからは逃げられないんだ』
『私死んでも絶対ネズミなんかにならないから』
『そんなこと言わないでちょっとの間だから』と説得すると
シンはマナちゃんと一緒にネズミに変身して穴を通り外に抜け出し、
でんぐり返しをして元の姿へと戻った。
二人はそのまま走りながら家へと向かった。
それぞれ何事もなかったように家へ戻り『お母さんお父さんお休み』
と言って寝てしまった。

次の日は町中がパンダが消えてしまったことで大騒ぎとなっていた。
学校へ行くとシンはマナちゃんに会い『きのうは、あんなことになって
 ごめん…』でも、マナちゃんは『すごく面白かったわ』と言うと
『今度は二番目に好きなペンギンになりたい』と無邪気に言った。
シンは心の中で『やだよ〜もうかんべんしてくれよ〜』と思ったが、
大好きなマナちゃんの可愛い笑顔を見て『うん』と言ってしまった。
                     
おしまい

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