那賀町にドローンの好きな[よしじい]と呼ばれるおじさんがいて何でも手作りが好きで
ドローンをコツコツと手作りしていた。
そうとう、そそっかしいところがあるが子供のころから手は器用だった。
ある日ドローンが完成した。

カバーは、既製品をかぶせているが中身は世界中の最高の
部品を集めて作ったじまんの作品だ。

そのドローンに数日前、家の近くの林にひょっこりやって来た幻の鳥
ヤイロチョウを意味するピッタとなづけた。

一夜明けた朝、裏山の空き地で飛ばしてみた。
スーと上昇させると突然クマタカがやって来て何を思ったか
するどい爪を持つ足でガシッとつかんでバッサバッサと持ち去って
しまった。
よしじいはぼうぜんと立ちすくんだ。
『なんて日だ』とおもわずさけんでしまった。

クマタカはパートナーが待つ子育て中の巣に運んだ。
どうやらエサだと思ったらしい。
クマタカはヒナにクチバシでちぎって食べさせようとするが
まったく歯が立たない。
クマタカはあきらめて近くのリュウ峠の岩の上に捨ててしまった。
その日の晩は天気が大荒れで一晩中カミナリがなりひびいた。
岩の上にもカミナリが落ちたようだ。
ピッタは動かなかったが外観に異常は無いように見えた。

あくる日、よしじいはそうしんきを手にとり、むだだとわかっていたが、
自動でもどるリターンホームのボタンを押してみた。
岩の上のドローンは『ディディディディ…♪』とソフトのアップデートの
ような音を立てて動き始めた。
いきおいよく空に舞い上がり、よしじいのいる所まで戻って来た。
着陸しても『ディディディディ…♪』となり続けたが、
しばらくすると鳴りやんだ。
すると、とつぜん『ただいまもどりました』と声をだした。
よしじいはビックリした顔で…『どこへ行っとったんぞ』と言った。
『はっきり、きおくにありませんが岩の上のようでした』
『そこは、どこらへんぞ〜』
『それに、なんで話せるようになったんやろな〜〜』
『部品をつけ過ぎたのではありませんか』
『わしは…そそっかしいので、そうかもしれんな〜でも不思議やな〜』

『ほんでも、もどってよかった…よかった〜』
『自由に空を飛べるんだったら、そうしんきはいらへんな〜』
『そんなもんはいりませんよ』
『ぼちぼち家にいななあかんわ』
家に帰るとよしじいはピッタには目はあるが手足が無いので
『手足がないと不便やな、つけたろか』と言って手足をつけてやった。
ピッタはよしじいに『どうしてぼくを作ったの』ときいた。
『それは、よしじいの住んでいる那賀町には自然豊かな所が
いっぱいあるけん、それを紹介しとうて作ったんじゃ〜』
『そうだったんですか』
『それじゃーぼくもさがしてあげますよ』

あくる日、太陽があがるとすぐにピッタは空に舞い上がりワジキライン、
川口ダム、あぶがぶち、ライオン岩、長安口ダム、小見野々ダム、
こうのせきょう、じろうぎゅう、つるぎさん、といっきに進んだ。
つるぎさんの頂上に立っている一匹の犬が目にはいってきた。
よしじいに聞いていた《つるぎさん》を見守るラッキーだった。
それから方向を変えて、美しいささはらをこえて戻りはじめた。

途中一人のおばあちゃんが歩いているのが目に入った。
近づいて『こんにちは』と声をかけた。
おばあちゃんは『ビックリしたわ〜…なんじぇ〜』と言った。
『ぼくはピッタ、那賀町のよい所を探しています、何かよい所ありませんか』
『こんな、いなかじゃけん〜なんにもないな〜』
『このあいだドローンのドラマを作るいうて撮影しよったみたいじゃな』
『あんたもドローンでぇ〜』
『ぼくはドローンのピッタです』
『うちは〜ひさえばあよ』
『うちは、地元のもんじゃけんど、なんにもしらんな〜』
『ほなけんど、じかたび王子ちゅう那賀町の自然に詳しい
 お方がおるんでよ』『その人にきてみたら』
『そうですか…さっそく聞いてみることにします』
ピッタはその《じかたび王子》と言う方にあうために
ブナの森を意味するファガスの森と言うところまで飛んだ。

じかたび王子は、それは、それは驚くほどよく知っていて那賀町は
お宝の町であることをじゅうぶん知ることが出来た。

ピッタは春夏秋冬ごとに聞いた素晴らしい自然を撮り始めた。
よしじいは、それらをユーチューブというものにのせて全国の人に
見てもらえるようにした。

ピッタは後で・ひさえばあ・が人の世話や人助けをするおばあちゃんと
言うことを知り、人助け王女となずけた。
その後も、ドローンをうまくあやつる役場職員をドローン王子、
じょうるりが上手な人をじょうるり王子、ゆずを作る名人はゆず王子、
乗馬上手は乗馬王子と言った風に王女や王子と名付けた。
そうすると皆が面白がって近所の人にもつけるようになり、
やたらと増えて町中が王子と王女ばかりとなった。

ある日ピッタは何時ものように撮って来た映像を見せてくれた。
無数の黄色赤青の光が林の中でピカピカと光っていた。
この世のものとは思えない夢の世界にいるような美しさだった。
調べてもらうと新種のヒメボタルであることがわかった。
ホタル恋歌と言う歌もつくられカラオケ王女のトヨばあが唄うと
不思議と心にしみて、みんなが口ずさむようになりに日本中に
知れ渡ることとなった。

またある日には、洞窟の中から黒いゴマつぶのようなものを
持ち帰って来た。
それは、古い古い昔の…玉ねぎの種であった。
畑にまいてみるとやがて芽が出て育ち、引きぬいてみると、小さな
タマネギがすーっと上がってきた。
料理王子がカレーにして食べてみると今まで味わったことがない
うまさで『うまい』と大きな声をはりあげた。
皆も食べてみて…あまりのうまさにおどろいた。

那賀町は全国にさきがけて水素ステーションを各地に設置され、
タマネギ料理のレストランも出来、コスプレをしてきた人は1回無料で
食べられると言うこともあり日本全国から王子と王女のコスプレの
服を着た人達が集まってきて町中が賑った。
驚いたことにネットで知った世界中の人達もやって来るようになった。


多くの人々が各地からやって来ることで、地元の人には気付かなかった美しい風景、
ぜつめつきぐしゅのような珍しい生きもの、
美味しい水が豊富にあり、食べ物もおいしく、優しい人が多いことが、
よそから来た人に教えられることにより那賀町を誇りに思う人がふえた。


若者たちも黙っていなかった。
次々に新しいアイデアを考えては実行して、さらに賑うようになり
都会から戻ったり、移住したりする人がふえた。

ピッタは忙しくなったが天気のいい日は那賀町の空を飛びまわっては美しいところや
珍しいものを撮り続けている。

『もし、どこかで、ぼくを見かけたら声をかけてね』

おしまい

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