那賀町の山里に、ものすごく人見知りをするソラと
言う少年がいた。
気が弱く恥ずかしがりやで人と話をするのがにがてだ。
誰にも会わない山が、一番の遊び場となっていて、
木を切るナタを手に持って、ファガスの森へ行くのが好きだった。

ファガスの森は、ブナの大木に囲まれて、きれいな花が
咲き、鳥がさえずり、虫が飛び交う自然豊かな森である。

そんなある日、いつものようにナタを手に、
ファガスの森へと出かけた。
山道をどんどん進むと木の根っこが沢山ころがっている
広い場所についた。
ソラはナタで木の根っこを削っては眺め、また削ることをくり返した。

夕方になると、そこら辺中にあった木の根っこを、
すべて削り終えてソラは満足そうにほほえんだ。

帰り道は足どりも軽やかに家へと帰った。

その夜突然『ピカッーゴロゴロドスン』と大きな雷が鳴った。
ソラは布団の中でブルブル震えながら体を丸めていたが、
やがて『グーグー』と眠りについた。

次の日はすっかり天気もよく、いつものように山へと出かけた。
きのう遊んだところに来て見ると削った木の根っこが
一つもない。
『あれーおかしいな…どうしたんだろ』
雷が落ちたのか黒くこげて煙が出ているところがある。
しばらくキョロキョロしていると
『ドスンドスン、バタバタ、ガサガサ』
とすごい音を立て木の葉を舞いあげながら、
こちらをめがけて何かやって来た。
ソラはすぐに木の陰に隠れた。
すぐそばをばけもの達が通りすぎた。
そっと顔を出して見ると、
それはきのうナタで削った木の根っこのようだった。
後ろから『ガサッガサッ』と音がしたので振り向くと、
小さくて足の短いやつがやって来た。
そいつはソラの前で止まり
『君はだれ 何をしてるの』と声をかけた。
ソラは一番最初に削った小さな根っこだと
すぐにわかった。
おそるおそる『ぼくはソラ』とこたえ、
昨日ここへ来て木の根っこを削ったことを話すと、
木の根っこは
『ぼくはトロ』
『今 みんながケンカをしているところなんだ』
『ぼく達みんな君が創ってくれたの…おどろいたなー』

『どうしてケンカしてるの』
『誰がボスかでケンカをしているんだ』
『君は加わらないの』
『ぼくはとってものろくて弱いから無理だよ』

そこへみんなが賑やかに戻って来た。
一番大きいゴライアスが
『でかくて力が強いおれがボスだ』と言うと、
大きな口のガブも『何を言ってるおれがボスだ』と言った。
そして『おれのすることを見てみろ』と言うと、
近くにあった大きな木の根っこを大きな口でガブリと
食いついてガリガリと食べてしまった。

それを見た他のみんなは恐ろしくなった。
『そそ…そうですね』
『食われたら大変だから…ガブがボスでいいよ』
ゴライアスは『まて…おれと戦てからにしろ』と
言ってガブの前に立った。
二人はにらみ合い…一対一の勝負となった。
ガブはゴライアスをガブリと噛みついた。
ゴライアスは大きな手でドンとガブを突いた。
何度も繰り返したすえに疲れ果て、お互いに
向かい合ったまま、立ちすくんでしまった。

すると突然森中に響き渡る大きな声がした。
『二人ともやめなさい…おまえ達はたしかに強い
だがもっと強いヤツがいるのだ』
『それは、後ろに隠れている…トロ お前だ』
するとガブにゴライアス、そして周りのみんなから
『ウワッハッハッハッ』と笑い声がおこった。
ガブは
『のろまなトロが一番強いなんて笑わせるぜ』
ゴライアスも
『一番のチビが一番強いなんてばかばかしいしぜ』と
言った。

すると、また森から大きな声で『ウソではない…本当なのだ、
ガブにゴライアスよ二人でトロにかかってみなさい』と声がした。

それを聞いたガブとゴライアスはトロの方を向いて
まずガブがトロの頭にガブリとかみついた。
それを見ていたもの達はみんな目をおおった。
だがガブの歯が『ボキリ』と音を立ててへしおれた。

目をおおったみんなはビックリして声が出ない。
次にゴライアスが大きな手でトロを勢いよくついた。
トロはクルリと身をかわして小さい手で後ろからポンと押した。
ゴライアスはぶっ飛んで大きな木に
『ドスン』とぶつかりひっくり返ってしまった。
見ていたみんなは目が飛び出さんばかりに驚き
『ウオー』と声を上げた。

みんなトロの強さに驚いたがトロ自身も驚いた。
自分にこんなすごい力があるなんて知らなかった。

また森から大きな声で
『さっきから木の後ろに隠れているソラよ…
 かくれていないで出てきなさい』
『お前は気が弱くおくびょう者だと思っているだろう…』
『だが…お前もトロと同じように強いんだ…』と言うと声がしなくなった。

ソラは自分が気が弱くおくびょう者だと解っていたが
小さくてのろまなトロが一番強いことを目の前で見せられて森からの声を思いだし
自分も本当は強いんじゃないかと思うようになった。

それからというものソラは人が変わったように強くなった。
ある日ソラと友達がケンカになった。
いつもなら泣いて帰るところだったが泣かなかった。
人見知りをして気の弱いソラは強い少年へと変身していた。
ソラと友達となっていたトロは
『森からの声は、ソラのことをケンカが強いと言ったんじゃなく、
強いところがあると言っただけだと思うんだけどね』とポツリと言うと
ファガスの森へと消えて行った。

おしまい

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