昔…昔…ケンカにめっぽう弱いシジミチョウがいた。
大きさは爪の大きさぐらいで白いシジミチョウのピエロとその仲間達だ。

民家の畑には春になるといろんなシジミチョウがやって来て
花の蜜を吸った。
その花の蜜の取り合いでいつも小競り合いになる。
競争相手はヤマトシジミ、ツバメシジミ、ウラナミシジミ、ルリシジミや
ベニシジミでそんな中にピエロとその仲間達もいた。

ピエロ達は花にとまっても他のシジミチョウに追い払われることが多く
常に畑の端の方にいた。
特にケンカに強いのはベニシジミで自分よりはるかに大きい
アゲハチョウやツマグロヒョウモンにまで『ドスン』と体当たりをして
追い払うこともあった。
ベニシジミは近くに来るものは何でも手当たり次第に追い払った。
ある時ピエロがビックリしたのはベニシジミのそばを大きなスズメバチが
通ると花から『バーッ』と飛び立ちスズメバチにめがけて『ドスン』と
体当たりをして追い払ったことだった。

そんなケンカに強いベニシジミ達にピエロ達は太刀打ちなど出来る
はずもなかった。

だが若くて元気なピエロは無謀にもベニシジミと対決をすることにした。
花に止まっているベニシジミめがけて全力で『ビユー』と突進した。
ベニシジミは不意をつかれて『なんだよ』と言って空中に舞い上がると
ピエロも『ビユー』と後を追った。
もつれ合うように上がったり下がったりしたがベニシジミがピエロに『ドスン』と
体当たりすると『クルリクルリ』と畑に落ちてしまった。
ピエロの友達のピエールは少し弱そうなヤマトシジミと対決した。
それでもヤマトシジミに『ドスン』と体当たりされ簡単にやられて
『ヒラリヒラリ』と畑に落とされてしまった。

ピエロの仲間達はピエロとピエールに『サアッ』と近寄り飛べるようになるまでそばにいてあげた。
みんなはピエロやピエールが負けても『頑張ったね』とその勇敢さを
ほめた。
ピエロ達はベニシジミやその他のシジミ達の攻撃で白い羽が黒い
模様となって、ゴイシをちりばめたような姿からゴイシシジミと言われるようになった。



ゴイシシジミ達はケンカに弱いことが知れ渡り次第に畑から山の方に
追いやられてしまった。
山でも他の蝶たちに追われて、なかなか花の蜜にありつけなかった。

ピエロは池のそばのメダケの竹やぶに身をひそめ竹の葉の裏をのぞくと
白いアブラムシの仲間がいっぱい集まって生活しているのを見つけた。
そしてアブラムシのお尻から出ている液を見て…ピエロはそれを…
おそるおそる…飲んでみた。
『うわ〜なんだこりゃ〜〜おいしいぞ』
ほかの仲間達にも知らせると、その液を飲んだ仲間達は
『ほんと…こりゃ〜うまいぞ』と言ってひたすら飲み続けた。



ピエロとその仲間達はやっと安心して暮らせるところを見つけた。
ピエロ達はアブラムシの住家に卵を産んで卵からかえった幼虫は、
おいしい液を飲んだりアブラムシを食べるようになりチョウへと育つことが
出来た。

日本で肉食のチョウはゴイシシジミの他には居ない。
ゴイシシジミの幼虫はアブラムシの兵隊に食べられてしまうことも
あったがケンカの弱いピエロ達はこんな厳しい所で生きてゆくしか
なかった。

ピエロは子供たちを集めると
『私達は争いに一番弱く生れても
思わぬしれんが待ちうけようと
生きる道はきっとあり 夢を見られる時も来る
希望を捨てずに助けあい 力を合わせ生きてゆこう』と励ました。

これからも弱いながらも美味しい食料がある竹やぶで
力強く生きてゆくだろう。

おしまい

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