那賀町の裏山にキツネの親子とその仲間たちが、
どこからともなくやって来て、池のそばの竹やぶにすみついていた。

その中にゲン太と言うキツネがいて6匹の子供が生まれていた。
一太と言うあばれん坊のコギツネがいて毎日がにぎやかだった。
子供たちは元気に育って4カ月がたち、こぎつね達の教育の時期を
迎えていた。
そんなある日、一太がいつもやさしく大事にしてくれるおじいさんに
向かって『ぼちぼち死ぬんかえ』『いつごろ死ぬんじぇ』と悪態をついた。
それだけでなく親に叱られても
『くそばばあ…はよ死んでまえ』『くそじじい…はよ死んでまえ』
とひどいことを言った。
これにおこった親や仲間たちは『なんてわるそなこじゃー』
『このままでは他のもんたちにもようないわ』
『今のうちに殺した方がええんちゃうか』

みんなも『ほんまじょ、ほんまじょ…ころしたほうがええわ』
一太にあくたいをつかれた者や集まった者たちもみんないっせいに
『一太をころさんか…ころさんかー』と声を上げた。

そんな中、年老いた…とみじいがよいしょと腰を上げて立ち上がると
『わしは人間のばあさんに化けるのが得意でな、
 ある日、人間の年寄りが集まる老人大学ちゅうところに、
 なにしょんかいな〜と思って、ばあさんに化けて行ってみたんよ』
 と言った。
『ほしたらな…頭のはげたじいさんが…ぎょうさんの人前で
 話をしとったんじゃー。
 ある所の子供が、じいさんに向かって一太と同じように、
 いつ死ぬんかえ…と言ったそうな。
 じいさんは…よめが言わっしょったと言っては家族がえらいこと
 もめたんやと!

 その頭のはげたじいさんの言よったんは、そのころの子は…
 くそじじい死ねとか、くそばばあ死ねと言うんは…ええ事なんやと
 そんな子のほうが、親の言うことをよう聞くかしこい子よりも…
 後でごっついわるそをするようなことがないんやと…
 一太は親ばなれがうまいこと…いっとんちゃうかいな』と言った。

みんなは『ほんなじゃらこいこと…信じれへんわ』
『ずるがしこい人間の言うことやないけ』
『ほんまじゃ…ほんまじゃ』と言い…とみじいの話に納得するものはいな
 かった。

とみじいは『どうかいな…一回だけでええけん、わしの言うことを聞いて
くれへんか…あったかい目でみてやってもらえんか』と言った。

『とみじいがほない言うんなら』
『一回だけやったら…しょうないの〜』と言うと
みんなは、すごすご…竹やぶへと帰って行った。

それからいつしか、年月が過ぎ3年がたったある日の夜
エキサイティング・サマー・イン・ワジキが行われる大塚製薬の
広い芝生に、ものすごい数のキツネたちが集まり、
野外ステージの真ん中で一匹のキツネが立ち…挨拶をしていた。
それは、悪態をついた…あの一太だった
一太は立派でゆうかんなキツネとなり、キツネの世界では珍しく
1000匹を超える仲間のリーダーとなっていた。

とみじいは一年前に亡くなったが、とみじいのことを忘れるものはいない。
とみじいの墓にはいつも花がたえることはなかった。

おしまい

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