『こころ ごはんよ』
『は〜い』
明るい声が庭からすると
少女は走って家の中へと入った。

こころは4歳 父さん、母さん
そして、おばあちゃんの4人家族。

おばあちゃんは85歳で半年前おじいちゃんが亡くなり
まもなく寝たきりになりいつもベットで寝ていた。
こころはそんなおばあちゃんに食事を部屋まで運んで
食べさせてあげるやさしい少女だ。
庭で遊ぶのがだい好きでトトロ池に住み着いている
トノサマガエルと仲良しになっていた。

カエルはお日さまが顔を出すと池の石の上に座りエサの虫がやってくるのをじっと待っている。
そしてお日さまが山に沈むと花だんの中で眠るのだった。

こころはそんなカエルを見ているのが好きだった。

ある日カエルがいつものようにお気に入りの場所で、
ドデンとすわり虫がやってくるのを待っていた。

こころもいつものようにトトロ池のそばでながめていた。

するとヘビが近づいて来て岩のすき間からニュッと顔を出した。
こころはカエルがヘビに食べられてしまうと思い
胸の前で祈るように手を合わせた。

その時、カエルは何を思ったかすごい勢いでガバッと
ヘビの頭にかみついた。
ヘビは目の前が真っ暗になり何が起こったかわからず
しばらくぼうぜんとした。
カエルもとっさにかみついたものがヘビだと気がつき
恐くて身体がこわばってしまいじっとしていた。

へびはカエルを振り払おうと頭を左右にブルブルッと
ふった。
しかし、カエルの口がへビの頭にすっぽりはまってしまいなかなかはずれない。
ヘビは何度も何度も頭を振ってみたがはずれない。
すっかり疲れはててしまい、ぐったりと横たわってしまった。

カエルは『ヘビの頭をはなすと食べられてしまう』と必死に口を閉じていた。

こころはカエルがヘビに食べられる事ばかり心配していたが、
ぐったりしているヘビを見るとかわいそうになった。

こころはヘビとカエルの前に近づいてしゃがむと
『ヘビさん 助けてあげるからカエルさんを食べないで』
『カエルさんと友達になってあげてね』
『カエルさんもヘビさんと友達になって』と言った。

ヘビは『カエルと友達になんかなれネーよ』
『カエルと仲良くしているところを仲間に見られたら
バカにされて仲間はずれにされるに決まっている』

カエルは『ヘビと友達なんて…いつ食べられてしまうか
わからないし、みんなに嫌われちゃうよ』

『でも、このままヘビの頭をくわえたまま死ぬのもいやだ』
『いっそ食べられた方がいさぎよいだろうなー』と思った。

こころはもう一度『ヘビさん、カエルさん、仲良くしてね』 と言った。
ヘビはおもわず頭をコクリと下げてしまった。
カエルも食べられてもしかたないと観念した。
こころはヘビの首とカエルの首を持ち、そっとひきはなすと『コポッ』とはずれた。

ヘビは眼をぱちくりして『ハアハア』と大きな息をすると
カエルも 『ハアハア』と大きな息をした。

こころはヘビに向かって『明日ここに遊びに来てね』と言った。
ヘビは畑を通り住み家へと帰って行った。
カエルもヨタヨタと花だんの中に入って行った。

次の日お日さまが山から顔を出すと、こころはトトロ池のそばにしゃがんで
カエルとヘビがやってくるのを待った。

しばらくすると花だんの中からゴソゴソとカエルが出てきてコケのはえた石の上に乗った。
こころは元気そうなカエルを見て安心した。

だがヘビがなかなかやって来ないので、
ほんとうに来るかどうか心配になった。

しばらくして、ヘビが畑からモゾモゾと庭にはいってきた。

ヘビはカエルと顔を合わせると、よだれが出て『ゴクリ』とノドを鳴らした。
それを見てカエルはブルブルッと震えてかたまってしまった。

ヘビはハッと、こころとの約束を思い出した。
『約束は守らないとなー』
ヘビは『ヤー 仲良くしょうぜ』と言った。

カエルは『ホッ』として『よ・よろしく』と小さな声で言った。

こころはヘビとカエルにむかって
『なんかしてあそびましょ』『なにする』とたずねた。
すると、カエルが『ダンス』と言うと
ヘビも『ぼくも』と言い
それを聞いたこころも嬉しそうな顔で『私も』と言った。

こころは阿波踊りが得意だったおじいちゃんにおそわり
とてもうまくなっていた。

こころは女踊りや、男踊りをかろやかにおどった。
『ヤットサー、ヤットサー、アーヤットヤット』と
かけ声をかけると調子に乗って踊りが速くなった。

それを見たカエルとヘビもつられるように踊り始めた。

カエルはとても初めてとは思えないほど上手かった。
ヘビも長い身体をくねらせながら時々頭を上下に振ったり
左右に動かしてリズム良く踊った。

カエルの踊りはまるでおじいちゃんが踊っているようだった。

カエルもヘビも夢中でおどり続けた。

こころはおばあちゃんに教えてあげようとおばあちゃんの寝ている部屋にはいると
『ヘビさんとカエルさん 阿波踊りがとても上手なの』
『カエルさんの踊り おじいちゃんそっくりよ』と言った。

ばあちゃんはトトロ池の方を見ると体がピクリッと動いて
目がピカリと光った。
するとスーッと起きあがりベットから降りると庭の方に歩きだした。
こころは、おばあちゃんが歩くのをしばらく見たことがなかったのでビックリした。

おばあちゃんは庭のトトロ池のそばまで来ると
ヘビとカエルはまだ踊っていた。
それを見たおばあちゃんは
『ほんまに じいちゃんによう似とる』と言うと
手を上げカエルのおどりに合わせて踊り始めた。
こころも一緒に踊った。
しばらく踊るとおばあちゃんは疲れたのか
『もう よかろ』と言うと家に戻ってベットに入り寝て
しまった。

夕ご飯がすむとこころは父さんと母さんに
今日あったことを話した。

すると母さんは
『こころ バカなことは言わないで』
『ヘビはカエルを食べるのよ』
『どうして仲が良くなって阿波踊りまでするのよ』
『それに、おばあちゃんは歩けないのよ』
すかさず父さんも『こころ 昼寝をしていて夢でも見たんじゃないのか』と言って信じてくれない。

こころは『おばあちゃんにも聞いて』と言って
おばあちゃんの部屋に入ると『ねね おばあちゃん ほんとだよね』と言った。
おばあちゃんは
『ああーほんまじゃ〜 カエルさんと踊ったんよ』と
言った。

それでも、お父さんとお母さんは『ハハハハ』と笑ってまったく信じない。
おばあちゃんは
『カエルさんの踊りはじいちゃんによう似とったわ』
『あれは ほんま じいちゃんだったかもしれんな』と
言うとにっこり笑って寝てしまった。

お母さんがおばあちゃんの足の方へ目をやると
『あら…へんね、おばあちゃんの足に土が付いてるわ』
と言って父さんと顔を見合わせた。

おしまい

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