カッパのなか太郎とあいのすけ
那賀町の小浜と言う所になか太郎と言うカッパがおった。
なか太郎はみょうじんの滝の脇にある大きな穴を住家としていた。
みょうじんの滝はうっそうとして暗いところにあったために、
おとずれる者はいない。

そんなある日、少年が一人やって来た。
なか太郎は人を見ることはめったにないのでビックリして穴の中に
かくれた。
少年はなか太郎に気づいていないらしく、水の中に手を入れて遊び始めた。
なか太郎は母から『人間とあっても話しかけたりしてはいけないよ』
と言われていた。
しばらくながめていると少年が足を滑らして滝つぼに落ちてしまった。
泳げないのか手をバタバタとして、ういたりしずんだりしている。
いたずらなカッパは足をひっぱって水の中に引きずりこんだろかと思った。
でも、ころしたらかわいそうだなと思ってやめた。
『たすけたろ』と言うと
ドボーンと水に飛び込んでおぼれた少年を岩の上にひっぱりあげた。
少年は気を失って全く動かない。
なか太郎は少年の胸を触ると少年は息をふきかえした。
なか太郎をみて『わあ〜〜』と大きな声をあげた。
カッパだとすぐわかったが、
悪い事をするといつも親から『カッパに来てもらって水の中に連れて行ってもらうから』と
言われると、よく言うことを聞いていた。
なか太郎を見ると殺されると思った少年は
『お願い殺さないで』とたのんだ。
『何を言うんだ 今たすけたばかりじゃないか』
『たすけてくれたの』
『僕を殺さないの』
『殺さないさ、でもケツをかましてもらうよ』
 そう言うと少年のケツをガブリとかみついた。
『何すんだよ、いたいよ、いたいよ』と大きな声で泣いた。
『ぼくのあいさつだよ』
『ひどいな〜〜』
『これじゃ〜歩けないよ』
『そろそろ家に帰らないとだめなんだ』
『そうか、歩けないから帰られないよな〜』
『それじゃ ぼくがかわりに行ってあげるよ』
『そんなこと出来るのかい』
『できるとも、ぼくは人間にばけるのが得意なんだ』
『君の名前はなんていうんだい』
『ぼく、あいのすけ、家はみやはま小学校の上の家なんだ』
『それじゃいって来るよ』
 と言うとあいのすけの姿に化けて教えてもらった家へと向かった。
すぐにわかり『だだいま』と何事もなかったように家へとはいった。
あいのすけの母さんは『おかえりと』言ってむかえてくれた。
『あいのすけー、ご飯を食べなさい』
『はい』と元気に返事をした。
『いただきます』と言って食べ始めた。
母さんが『あいのすけ…今日の遠足は楽しかった』と聞くと
『楽しかったよ…』とあいのすけ。
『良かったわね』
『ちゃんとしゅくだいしなさいよ』
『はい』と返事をした。

カッパはあいのすけの部屋に入ると人間が勉強していることに
きょうみがあり本を見てくつろいでいた。
父さんが帰って来たので母さんが『あなた…あいのすけ少し変よ』
『なにが変なんだ』
『遠足楽しかったと聞いたら…楽しかったと言ったわ』
『それにしゅくだいしなさいって言ったら はいと言ったのよ』
『いつもなら楽しかったと聞いたら《楽しくない》って言うし、
しゅくだいをしなさいと言ったら《あとで》て必ず言うわよ』
『ぜったいおかしいわよ』
『ただ、かしこくなっただけじゃーないか』 と父さんが言ったが
母さんはぜったいおかしいとおもった。

母さんがあいのすけに『お風呂はいりなさい』と言うと、
なか太郎は『はい』と答えた。
なか太郎はお風呂に入ったことがないのですごく楽しかった。
お湯に入ると、とても気持ち良く知らぬ間に少年の姿からカッパに変わっていた。
母さんはあいのすけがいつもより静かすぎるので、そおっと風呂場を
のぞいてみた。
あいのすけがいるはずがカッパが湯ぶねにつかっているのを見て
ビックリぎょうてんして声も出ず腰を抜かしてしまった。

少しして、なんとかはいながら台所まで戻ると『あなた、あなた…大変よ』
『なんだよ』
『あいのすけはカッパよ』
『バカを言うな』
『ほうとうよ…自分で見てみたら』
父さんは、そおっと、お風呂をのぞいて見るとかあさんが言うように
カッパがいる。
そこで父さんは大きな声で『こらカッパ』
『あいのすけはどこにいるんだ』と言った。
なか太郎は自分の姿に戻っていることがわかりビックリして『ごめんなさい』と
言って今までのことをはなした。
なか太郎があいのすけのところに戻ると、あいのすけは暗い穴の中から
心配そうに見つめた。
『うまくいったの』 
『うまくいったんだけど、ちょっと失敗してしまったんだ』
あいのすけはなか太郎から話を聞くと、かまれたお尻の傷も不思議と治っていたので
『もう歩けるから帰るよ』と言い家に戻った。
父さんと母さんは、あいのすけにだきついて『良かった良かった』
『カッパにお尻かまれて痛かっただろ、それにこわかっただろ』
あいのすけはすぐに『いいや、いたくなかった』『こわくなかったよ』と言った。

あいかわらず反対ばかり言うあいのすけだったが、
ぶじにもどって母さんも父さんも本当に喜んだ。

そおっと様子を見に来ていたカッパは人間の親子の幸せそうな会話を
聞くと、とぼとぼと帰って行った。

 おしまい

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