オヤニラミのセナ

表記

オヤニラミは2007年に徳島県では絶滅危惧I類に指定されて
天然記念物となっています。
徳島県指定希少野生生物に指定されており捕獲や採取、
殺傷が禁止されています。
那賀町では中山川にだけ生息しているが数を減らし絶滅の危機を
迎えたが最近放流活動により生息と自然繁殖が行われたことが
確認されている。

【オヤニラミの生態】
オヤニラミのオスは縄張りを守りながら産卵場所を掃除する。
縄張りに来たメスに求愛行動をして、メスを産卵場所に導き、
数十分〜数時間交互に体を揺する。
産卵間際には揺すりが細かになり、メスが2〜3列に計約80粒の卵を
下から産みつけ、オスが精子をかける。
メス、オスとも相手を変えて数度産卵する。
大きくて強いオスにはメスが次々に産卵に訪れる。
産卵が終わると、オスはメスを追い払い、胸ビレで卵に新鮮な水を
送ったり、死卵を口で取り除いたりして卵を保護する。
大きくて強いオスでは1000粒以上の卵を保護する。
保護はある程度大きくなるまで続けられる。

体色は変化が大きく、黄褐色から黒色にまで様々に変化する。

【食性】
稚魚は田んぼで発生して流れてくるミジンコを主に食べる。
未成魚および成魚は落下昆虫、水生昆虫を食べ、
またメダカなど小魚を食べる。

縄張り行動が強く、強いオスで直径1〜2mの縄張りをもつ。
弱者は争いに勝った強者をけっして攻撃しない。

今後オヤニラミが生息していけるかどうかは稚魚の餌となるミジンコに
とって田んぼが欠かせない為に人の援助にかかっているいるのかも
しれない。



那賀町の中山川にめっきり少なくなった珍しいオヤニラミと言う魚の
親子がほそぼそと暮らしていた。
オヤニラミはエラの後ろに大きな目の模様がある美しい魚で
お父さんが卵から子供たちが一人前になるまで命がけで世話をする。

子供たちは生きてゆく所が危険がいっぱいであることを知らないので
とても危なっかしい。
兄弟は200匹と多くて、その中にセナと言う名のオヤニラミがいた。
お父さんは子供たちを必死に守ってくれるが子供たちが多くて
みんなに目が届かない。
こわい魚が近づくとお父さんは自分よりも大きな魚にも体当たりをして
追い払ってくれた。

ある時モクズガニと言う大きなカニが目の前に現れた。
それはそれは大きなハサミをバンザイの形に振り上げて
今にもおそいかかってきそうな恐ろしい姿に子供たちは怖がり震えあがった。
セナもあまりの恐さにお尻からプニュッとウンチをもらしてしまった。
お父さんはあわてずに『みんな〜 そんなにこわがることはない』
『心配せずに後について来なさい』と言って恐ろしいカニの前を通り
草の中に入りカニのいなくなるのを待った。
しばらくするとカニは大きなハサミとハサミに生えている毛をゆらゆらと
ゆらしながら去って行った。
子供たちはフ―とため息をつき体の震えもなくなった。

恐ろしいカニがいなくなりセナやその兄弟たちはばらばらに草から外に
出て散らばっていった。
しばらくすると『助けて―』と言う声とともに子供たちが戻って来た。
お父さんは子供たちに『どうしたんだ』と聞いた。
子供たちはいっせいに『やさしい顔をしたさかなさんがおそってきて
仲間が食べられた』と言った。
お父さんは『それはクチボソと言うヤツだよ』
『とても優しい顔をしているが油断するとお前たちを簡単に食べてしまう
恐ろしいヤツなんだ』と言った。
『恐ろしい姿をしたカニよりもやさしそうなクチボソのほうが怖いんだよ…
だから気をつけなさい』と言った。
セナはお父さんにいろんなことを教わり少しづつ生きる知恵を
学んでいった。
それでも、何日か過ぎると兄弟達は50匹ほどに減ってしまった。
知恵のあるセナは兄弟達のリーダーとなっていて、おそわれた時の
備えを身につけはじめていた。

そんなある日みんなで遊んでいると、あのクチボソがやって来た。
少しづつ近づき狙いをさだめるように頭を左右に動かした。
セナはすかさずみんなに合図を送ると目の模様だけをあけて、
みんながお父さんの体にひっついた。
するとクチボソはオヤニラミの大きな目の模様にビビって逃げてしまった。
あわてて逃げる様子を見てセナ達は歓声を上げた。

あくる日にはクチボソよりも大きくて怖いハエ(カワムツ)がみんなの
前に現れた。
その時には守ってくれるお父さんは離れていて居なかった。
セナは一瞬ひるんだがすかさずみんなに合図を送った。
すると、いっせいに…さあーと集まりお父さんがいる時と同じように
並んだ。
まるでお父さんと同じ姿へと変身した。
ハエはその姿を見てビックリ仰天して逃げて行った。
兄弟たちは皆うれしくて飛び跳ねて喜んだ。
お父さんにそのことを話すと『よくやった…よくやった』とほめてくれた。

数日後、今まで見たこともないでっかいウグイがこちらに向かって
やって来た。
お父さんは近くの大きな黒い石に引っ付いてサッと体の色を
薄茶色から黒い色に変えた。
セナ達も一斉に同じように並んだ。
するとウグイは私達に気付くことなくみんなの前を通りすぎて行った。
セナやみんなも自分の体の色が父さんと同じように黒く変わっているのに
気付いて『すっごいぞ…色が変わった…色が変わった』とはしゃいだ。
それを見てお父さんはみんなの前で、ゆっくりと話し始めた。
『お前たちは生きる知恵を身につけ、もうすぐ一人前となるだろう
だが自分の力にたより過ぎてはいけない。
あぶない時にはすぐに隠れることが一番だよ。
そして、お前たちが大きく育つのは我々の力だけでは駄目なんだ…
きれいな水が流れ…人間達が田んぼを作ってくれるからエサとなる
ミジンコがいっぱいいるんだよ…田んぼが無くなってしまうと
生きられなくなってしまうかもしれない…』

セナは長く生き続けるには人間の助けが必要であることを知り
まだ見ぬ人間の姿を想像しては、会う日がとても楽しみとなった。

セナ達は一人立ちする日が近づいているが、
お父さんは今日も温かく見守っている。

オヤニラミに会ったら『こんにちは』と言ってあげてね。

おしまい

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