モデルとなったスズメのピータはこちらです

森は朝もやがたちこめ静まりかえっている。
沈黙をやぶり1羽2羽と鳥達が声高らかに歌を唄いはじめる。

ウグイスがホーホケキョー
トンビがピィーヒョロロ−
イカルはピィピィコピィーピィー
カラスはカーカーカー

モズはものまねがうまくて、鳥達のまねをして
唄っている。
森はいつも鳥達の歌声でとても賑やかだ。
その中にピータもいた。
ピータは森のすぐそばにある古い民家のカワラの
下を住家にしているスズメだ。
ピータは卵からかえってまもなく巣から落ちてしまった。

親鳥がピータが落ちた所までエサを運んで無事に
育ったのだった。
だが巣から落ちた時に翼を痛めてしまい、
わずかしか飛べなくなってしまった。
いっしょに生まれた兄弟も巣立ち
ピータも親もとを離れて、ここに住むようになっていた。
ピータは他の鳥達が唄う始める頃
住家のカワラの下から出てきては、
すぐ近くの木に飛びうつり歌を唄い始めるのだった。
その歌はスズメとは思えないほど
美しい声でとてもうまかった。

チュンチュチュ     チュチュチュン    チュンチュルルン
ぼくらは           みんな               いきている
キュルルル       キュルキュル     キュルキュルル
いきて                 いるから             うたうんだ
チュルルル       チュルチュル      チュルルルルー
つらい                 ときにも              くじけずに
ヒュルルル      ヒュルヒュル      ヒュルルルルー
きぼうを              すてずに            うたうんだ
チュンチュルチュンチュル        チュルルルチュルルルー
つばさをたいように                        すかしてみれば
ピュルルールピュルールル         ピュルルピュルルルー
まっかにながれる                          ぼくのちしお
チュンチュルル     チュンチュン      チュンルルル
トンボだって            メダカだって            カマキリだって
チュチュチュンチュチュチュン  チュンチュルルン チュンチュルチュンチュルルー
みんなみんな             いきているんだ        ともだちなんだ

といつまでも いつまでも唄い続けた。
そのうちにピータの歌声に誘われるように
つぎつぎに鳥達が集まって来る。
仲間のスズメ達はもちろんメジロ、トビ、ホオジロ、イカル等
この森にいる鳥達すべてがやって来るのだった。
驚いたことに歌の得意なウグイスやオオルリ
そしてコマドリまでもやって来ていた。
その歌声はみんなの心をいやし元気にする不思議な力があった。

とくにお気に入りだったのがカラスとモズだった。
ある冬の寒い朝、腹をすかしたタカの
チョウゲンボウがピータを見つけて上空から
急降下してきた。
『ビューー』
ピータは知らずに歌を唄い続けていた。
それに気づいたカラスはすぐに飛びたち
チョウゲンボウにむかって大きなクチバシで
体当たりをした。
『ドスン』 『アイター』
チョウゲンボウはいちもくさんに逃げていった。
また、ある夏の日には大きなアオダイショウが
ピータをねらって木をよじ登って近づいた。

『飛べないスズメなんて簡単につかまえられるぜ  しめしめ』
アオダイショウはピータにじわじわとしのびよった。
『みんな たいへんだー』
『アオダイショウだ』『それー』
『イタイ イタイ』  『ドスン』
歌を聞きに来ていた鳥達がいっせいに飛びかかり
クチバシでつついてアオダイショウを木から
落としてくれた。
ピータの仲間達はとてもやさしく飛べないピータをいつも助けてくれた。

そんなピータが3年目の春に結婚をすることになった。
たまごも産まれてヒナもかえり幸せな日が
何日か続いたが突然倒れて死んでしまった。
森のすべての鳥たちが集まり、深い悲しみに包まれた。
それからというものピータの歌声のない森はだれも
歌を唄う元気もなく鳥たちの歌声がひびくことが
なかった。

鳥たちの歌声がない日が続き、それからだいぶ
たったある日とつぜんピータの歌声が森中に
ひびいた。
鳥たちは驚いて声のする方へ集まった。

するとピータがいつも唄っていた同じ所で
スズメがピータと同じ美しい声で唄っていた。
集まった鳥達はみなピータだと思った。
しかしよく見るとピータに似ているがピータとは
違っていた。
みんなが不思議に思って『ピピ・チチ・ガガ…』と
お互いに顔を見合わせてざわついた。
すると『あれはピータの子供だよ』とモズがみんなに教えてくれた。

ピータの子供は5羽生まれたが1羽はピータと同じように
巣から落ちてケガをして飛べなくなっていた。
それを見たものまねじょうずなモズがその子に
ピータが唄っていた歌を毎日教えたのだった。
ピータの子供は覚えが早くみるみるうちにうまく
なっていった。

そして今日ピータが唄っていた同じ所で初めて
唄ったのだった。
ピータの子供も美しい歌声で

チュンチュチュ     チュチュチュン    チュンチュルルン
ぼくらは           みんな               いきている
キュルルル       キュルキュル     キュルキュルル
いきて                 いるから             うたうんだ
…………… とピータと同じように唄った。

それからというもの森に鳥たちの歌声がたえることはなかった。

 おしまい


inserted by FC2 system