那賀町の里山に狸のトサジロウとその家族達が暮らしていた。

トサジロウ達が住んでいる里山は開発が進み山が削られ、そこに大きな工場が出来た。
町民達は働くところが出来て、とても喜んだ。

ところが、新たにテニスコートや野球場、そして工場誘致の為の開発が進められた。
木は切られ山は削られて里山は、すっかり姿を変えてしまった。

町民達からは
『こんな不景気に工場なんか、やって来るんかいなー』と心配する声があがった。

そんな中一番困っていたのが、その里山を住み家としていた狸たちだった。

僅かばかりとなった里山から広いところへ移り住もうと言う者もいたが、住み慣れたこの土地から、
離れたくないと言う声が多かった。

トサジロウも『これ以上住む所が無くなっては大変じゃなー』
『子や孫が安心して暮らせるように、なんとかせんといかんなー』と言ったが、良い考えが浮かんでこない。

ある狸が『町にそんなに金があるんなら、それを奪ってしまえば良いんじゃないか』と言った。

トサジロウは他に良い考えがなければ、仕方がないと思い二匹の狸に
『町役場に行って様子を見て来い』と言った。

2匹の狸はじいさんと、ばあさんに化けて町役場の玄関からどうどうと入って行った。
部屋の中をキョロキョロと見回しても、
金目の物はなかなか見つからない。
じいさんに化けた狸が、スダチ君の置物を見つけて
『これはすごく高いんじゃーないか』
ばあさん狸も『おーそうかもしれん』と言った。
すぐさま戻りトサジロウに報告した。
それを詳しく聞いた長老は
『ばか者…それは、ただの置物じゃーないか』
『バカだなーハッハッハ』と笑った。

今度は元気の良い息子のギンタを行かせた。

ギンタは玄関から町長が出て来るのを見ると、
すかさず町長に化けて、玄関からどんどん進むと、
町長室へと入って行った。

すると机の上に金色に輝く狸が置かれていた。
ちょっと持ってみようとしたが、重くてびくともしない。
ギンタは、これは高い物にちがいないと思い
すぐに山に戻りトサジロウに伝えた。

トサジロウや長老も『それは間違いない』と言い
『でもそんなに重い物を、どうして運んだらよいもんかのー』
と頭をうなだれて困ってしまった。

そこへ切れ者のカンタが『ギンタが町長に化けて、
親分がカバンに化けて、運んで来たらどうかいなー』と言った。
みんなも『それがよい、それがよい』と口々に言った。

次の日トサジロウとギンタは町役場へと出かけた。

早速ギンタは町長に化けて、トサジロウはカバンに化けた。
ギンタはカバンを持ち玄関から何気ない顔をして町長室へと入った。
机の上に置かれたトサジロウは、金の狸の置物を見て
ビックリした。
それは亡くなった父親のトサゴロウの姿だった。

町では、伝説となっていたトサゴロウを町おこしの目玉として金の置物にしていたのだ。

カバンに化けたトサジロウは体の中に金の狸を入れ、
ギンタがそれを持って玄関へと向かった。
トサジロウはあまりの重さに腹の皮がさけそうだった。
ギンタも、とうとうたえかねて手を離してしまった。
カバンがドスン音をたてて床に落ちた。

トサジロウの急所が、金の狸の下敷きとなり『ンギャー』と大きな悲鳴をあげてしまった。
近くにいた職員はビックリしてカバンの方を見た。
ギンタはとっさにケンケンをして『イタタタタ』と声を出した。
職員はそれを見て『町長さんたら、そそっかしいわね』と言って笑った。

カバンに化けたトサジロウの体から冷や汗が流れ出た。

ギンタはカバンをそっと持ち何気ない顔で外に出た。

トサジロウはギンタに『たのむからカバンを落とさんでくれ』と念を押した。
ギンタは歯をくいしばって山へと向かって歩いた。

坂道をあがりトイレがある公園まで来ると、
黒くて、まゆ毛の白い変な顔の犬が『ワンワン』とほえながら、トサジロウ達の方へ向かって来た。

『ワーかみつかれる』と思った時に遠くから
『スマッシュ来い』と大きな声がすると、犬は走って
戻って行った。

『ヤレヤレ助かった』

住み家に戻ったトサジロウ達は、金の置物のトサゴロウ狸を懐かしく思い、しばらくながめていた。
やがて金のトサゴロウ狸を、どこに隠すかで話し合いとなった。
そこでトサジロウは、みんなに向かって
『人の目に触れないところに隠すよりも、人の目に触れるところに隠す方が、面白いじゃないか』と話した。
そこで大塚製薬の工場にある幾つかのオブジェの中の
一つに隠す事になった。

町の宝物が消えてしまってからは、町中大騒ぎとなり、
いろいろ噂されたが、犯人はまったく解らなかった。

狸たちは町の宝物を隠したことで、もう新たな開発は
しないだろうと、安心して暮らすことが出来た。

夜になると裏山から『ポンポコポンポコ』と 
とても賑やかに踊りを踊る音が聞こえてきた。

あの時出会った黒い犬は、金の狸を隠したオブジェの前を通ると必ず『ワン』と一回ほえるのだが、
それを不思議に思うものは誰もいない。


inserted by FC2 system