山を往き      正津勉

道ばたに咲いている
花の名を知らない
花の蜜を吸い
ブーンと羽音ふるわせ
騒ぐ笹の沢に掻き消える
虫の名を知らない

わたしが知っているのは
どのみちすべて知らなくてもいい
よしなしごとばかり

頭上に枝をひろげる
木の名を知らない
木の間で囀り
チイッと一声よこざまに
吹き降りの空へ掻き消える
鳥の名を知らない

それはほんと悲しいことだ
ときにその場に脆き
誰にともなく
ひたすら赦しを乞いたいまで

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